人工知能の時代:ダイヤモンドの自動鑑定

人工知能の時代:ダイヤモンドの自動鑑定

『Rapaport Magazine』(2022年2月)、by Kyle Roderick

自動鑑定によってダイヤモンドの評価はよりすばやく、簡単になったが、この急速な変化は宝石鑑定士に何をもたらし、そしてどこへ向かうのだろうか?

人工知能(AI)は、オンラインや実生活の行動をアルゴリズムで誘導し、私たちの考え方や働き方、遊び方に影響を与えています。ダイヤモンド業界も例外ではありません。これまでは手作業で行われてきたダイヤモンドの鑑定にAIが導入され、より高精度でコンピューター化された分析が可能になりました。
International Gemological Reports(IGR)ロンドンの鑑定部門長、Zhanna Beissekova氏はAI鑑定の成長は、業界と消費者双方にとってプラスになると太鼓判を押します。「クラリティの鑑定は、特にそれが低い場合、かなりの時間がかかります。AIを利用することで、鑑定の効率が上がり、短時間でより多くのダイヤモンドを評価できるので、鑑定士は空いた時間でほかの作業に集中することができます。」
彼女はまた、AIの利用は不正な鑑定レポートの作成防止や販売市場に応じたダイヤモンド製品の細分化にも役立つといいます。
米ニューヨークの鑑定機関Gemological Science International(GSI)の共同設立者兼ディレクターのDebbie Azar氏もAIのメリットに同意する一人です。「ダイヤモンド業界は、人間よりも一貫性があり、正確で、再現性のあるダイヤモンドの鑑定方法を求めています。」
とはいえ、AIの登場で専門家による鑑定が終わりを告げるわけではないとAzar氏は強調します。「どんな産業でもそうですが、技術の発展によって労働力は最適化されます。鑑定士は新たなスキルの習得が必要になるかもしれないし、リモート選別など今までとは違った形での貢献が求められるかもしれません。技術の変化に伴って、専門的な知識や経験を今までとは違うやり方で活用する機会はいくらでもあります。」
「いずれにしても」とAzar氏は続けます。「ダイヤモンドのカラーをDからZで評価する初めての測色計が開発されたのは1940年代のことです。ダイヤモンドの自動鑑定は新しいものではありません。」

クラリティの評価

1940年代はGIAが4C(カット、カラー、クラリティ、カラット)と呼ばれるダイヤモンド鑑定システムの開発に着手した時代でもあります。その後、1955年に初めてのダイヤモンド鑑定レポートを発行してダイヤモンド業界に革命をもたらし、2020年にはコンピューター大手のIBMと共同で開発した自動クラリティ評価システムの運用を開始しています。
GIAのSVP兼最高執行責任者のPritesh Patel氏は、IBMとの共同事業について「数千万個のダイヤモンドのクラリティ情報という膨大なデータセットとGIAの鑑定士のスキルに、IBMのAIと機械学習の専門知識が加わった」と評価し、AIの結果を人の目で一つ一つ確認・検証することで、より精度の高い鑑定が実現できると高い期待を寄せています。
また、GIAの上級副社長兼ラボ・調査最高責任者であるTom Moses氏は「ラボ内を毎日のように流れるダイヤモンドの川は、膨大なサンプルを確認する唯一無二の機会を提供し、AIシステムの堅牢性とトレーニングに大きく貢献している」と断言します。
GIAはファンシーカラーの評価にも自動化を拡大しようとしています。「DからZのカラー鑑定で培った長年の経験に基づき、ファンシーカラーの鑑定をサポートするアルゴリズムを開発しています。」とMoses氏はいいます。
「とはいえ、ダイヤモンド鑑定で専門の研究員が果たす役割の重要性は変わりません。原石の重量測定からプロポーションのスキャン、カラー鑑定まで、そのプロセスをサポートする機器の開発が進めば、鑑定士は新しいサービスやより複雑な鑑定に専念できるようになるでしょう。」
AI部門でGIAのライバルの1つがイスラエルのサリネ・テクノロジー社のSarine Clarity™システム(後述)です。この装置は、ダイヤモンドのインクルージョン(内包物)やブレミッシュ(キズ)を自動的にマッピングすることで、主観による鑑定の曖昧さを回避することを目的としています。ここで使われている鑑定アルゴリズムはGIAと同様に、宝石学者チームによる長年の研究とその測定値を基に機械学習によるさらなる強化が行われています。

 

diamond clarity grading technology

 

徹底的な問いかけ

AIによるダイヤモンドの鑑定プログラムを評価する場合に「そこで使われているアルゴリズム」を知ることは重要です。また、創業当時のIBMのプログラマー、George Fuechsel氏が「ゴミ入れゴミ出し」と表現したように、コンピューターは与えられたデータを処理する箱に過ぎないため、データの質にも注意を払う必要があります。
その上で、前述のAzar氏はどんな鑑定基準が採用されているかを徹底的に問うべきだと主張します。「ダイヤモンドは3次元の立体です。最終的にはフェイスアップで評価されますが、鑑定士は3つの側面すべてを鑑定します。」彼女はまた、個々のダイヤモンドを比較するための基準値を確認するように提案しています。
AIシステムが使用するカメラやセンサーは、より正確にクラリティを識別するために十分な感度が必要です。そして、GIAとサリネはどちらも最先端の性能を備えています。
1375年にドイツのニュルンベルクでダイヤモンドのカットと研磨のギルドが結成されて以来、ダイヤモンド鑑定の技術と知識は着実に蓄積され進化し続け、自動鑑定システムによって客観的で高速な分析を手に入れました。もう後戻りはできません。
サリネが提供するAIを活用したeGradingシステムでは、ダイヤモンドの輝きなど4C以外の指標も評価します。輝き(光との相互作用の測定)は、ダイヤモンドの視覚的魅力を定義する最も正確かつ包括的な指標といわれています。
eGradingプログラムでは、ダイヤモンドをラボに送付する必要がないため、第三者に評価を依頼するコストや保険料、評価にかかる時間や労力を節約することができます。また、処理も高速なので大量の鑑定依頼にも対応可能です。また、4C以外のパラメーターも評価できるので、必要なダイヤをピンポイントで調達でき、より効率的なサプライチェーンを実現可能です。
カラーの精度に関しても同様です。手作業では鑑定士ごとに、また同じ鑑定士でも作業や時間が違えば誤差が生じますが、AIを利用することで一貫性を担保できます。
クラリティの面では、AIを利用したSarine Clarity™システムでダイヤモンドのインクルージョンとブレミッシュをマッピングすることで、人間の鑑定による曖昧さの問題を解決します。また、サリネのダイヤモンド・レポートで、ダイヤモンドのデータを印象的なグラフィックでダイナミックに表示し、鑑定情報をインタラクティブなデジタル形式で提供することができます。

AI vs manual grading