ロミー・ガク・バラム グローバル・マーケティング&ブランド・ディレクター
ロミー・ガク・バラム グローバル・マーケティング&ブランド・ディレクター
初めて参加したCIBJO大会が、同団体の創立100周年という節目の開催であったことは、私にとって特別な意味を持つものでした。
4日間にわたり、ジュエリー、ダイヤモンド、ジェムストーン、貴金属のバリューチェーンを担うさまざまな方々の声に耳を傾け、学び、意見を交わす機会に恵まれました。議論は、個々の市場が抱える課題にとどまりません。繰り返し立ち返ったのは、より大きな問いでした。
豊かな歴史を持つこの業界を、時代に即し、信頼され、人々の心を惹きつけ続ける存在として、どのように未来へとつないでいくのか。
こうした視点から、大会を通じて特に印象に残った議論とインサイトをまとめました。皆様がご自身のビジネスの優先課題や今後の計画を考える際に、お役に立てば幸いです。
4日間の議論では、互いに深く関わり合う次の問いが繰り返し取り上げられました。
- 消費者の「欲しい」という気持ちを、どのように再び呼び起こすのか。
- 新たな価値を、どのように生み出すのか。
- テクノロジーとAIを、どのように責任を持って活用するのか。
- 信頼と透明性を、どのように高めるのか。
- 地政学的・経済的な混乱に、どのように対応するのか。
- 伝統ある業界を、次世代にとっても魅力と意義のある存在にするには何が必要なのか。
大会初日、カルティエのカルチャー&フィランソロピー部門チェアマンを務めるシリル・ヴィニュロン氏は、世界が深い不確実性に直面する今だからこそ、誰もが参加できる議論の場を大会に設けることの重要性を強調しました。
同氏が指摘したのは、価値観は単に受け継がれるものではなく、私たちが何をし、どう行動するかによって形作られるということです。一見、変わらないように思えるものさえ変化し得る。そうした認識のもと、共通の目的を持つ連携を築き、新たなパートナーシップに開かれた姿勢を保つよう呼びかけました。
CIBJO会長のガエターノ・カヴァリエリ氏も、この100周年記念大会において、未来を見据えるとは、変化やイノベーションを受け入れながら、幾世代にもわたり蓄積されてきた経験と知識を礎にすることだと、業界に改めて伝えました。
議論を形作った6つのテーマ
01 購買意欲を再び呼び起こす
ビジネスの観点から、おそらく最も強く打ち出されていたテーマです。
Ninety Oneの取締役会長、ガレス・ペニー氏は、天然ダイヤモンド業界に根本的な問いを投げかけました。「なぜ、天然ダイヤモンドを選ぶのか」。
若い世代の消費者に語りかけるには、マーケティングがより感情に訴え、一貫性を持ち、憧れを喚起するものでなければならない。それが同氏のメッセージでした。
マーティン・ラパポート氏は、これに関連しながらも、やや異なる視点を示しました。天然ダイヤモンドをラグジュアリーとして改めて位置づけ、主に価格で競うのではなく、希少性、富の創出、そして憧れに焦点を当てるべきだというのです。また、天然ダイヤモンドの二次流通市場が持つ可能性にも言及しました。
ロブ・ベイツ氏、アヴィ・クラヴィッツ氏、エダン・ゴラン氏による「Diamond Dudes」のパネルでは、議論が市場の基本要因へと戻りました。原石供給の減少は天然ダイヤモンド価格を下支えしているものの、依然として最大の課題は需要です。ベイツ氏は米国の高価格帯以外の市場における消費者心理の弱さを指摘し、パネル全体を通じて、マーケティングをより効果的なものにする必要性が強調されました。
重要なインサイト
天然ダイヤモンド業界は、希少性、歴史、供給動向だけに頼ることはできません。求められているのは、天然ダイヤモンドについて説明することだけではなく、それを「欲しい」と感じる気持ちを新たに生み出すことです。
02 差別化
天然と合成をめぐる議論は、マーケティング上の表現から、業界の基準そのものへと踏み込みました。
これは、今回の大会で特に重要な成果のひとつとなりました。CIBJO理事会は、天然のものと同じ化学組成、物理的特性、構造を持つ人工的に製造された製品について、ブルーブックにおける唯一の科学的呼称を「synthetic(合成)」とする勧告を承認しました。一方でCIBJOは、「laboratory-grown(ラボグロウン)」および「laboratory-created(ラボラトリー・クリエイテッド)」が一部の法域で認められたマーケティング用語であること、また現地の法律が優先されることも認めています。
ラボグロウン・ダイヤモンド委員会は、市場のもう一方の現実を示しました。大会で発表されたデータによると、米国のエンゲージメントリングは、数量ベースですでに半数以上にラボグロウン・ダイヤモンドが使用されています。
大会後のJCKの報道では、この用語をめぐる議論は、より広範な議論の始まりにすぎない可能性が指摘されています。また、ロブ・ベイツ氏はその後、この問題が米国の規制をめぐる議論にも広がっていると報じました。
世界ダイヤモンド取引所連盟(WFDB)会長のメフル・シャー氏は、天然ダイヤモンドとラボグロウン・ダイヤモンドを、単なる競合商品ではなく、それぞれ独立したカテゴリーとして捉えるべきだと強調しました。「ダイヤモンドは永遠に」と「すべての人にダイヤモンドを」というメッセージは共存できるとしたうえで、ラボグロウン・ダイヤモンドがダイヤモンドというカテゴリー全体への入口となり、消費者が購買力の向上とともに天然ダイヤモンドへ移行する可能性を示しました。
重要なインサイト
用語をめぐる議論の本質は、業界がどのように価値を伝え、消費者にとって明確でわかりやすい情報を提供するかにあります。
03 テクノロジーとAI
AIに関するパネルでは、テクノロジー、法律、クリエイティブ、そして業界全体の視点が集まり、AIがもたらす機会と課題の双方が検討されました。
AIはイノベーションを加速させ、製品開発の迅速化、業務効率の向上、より確かな情報に基づく意思決定を可能にしています。その一方で、急速な普及は、知的財産、データの所有権、説明責任、人による監督、責任ある活用、そして創造性や職人技の継承といった重要な問いを投げかけています。AIが進化し続けるなか、技術の進歩と人間の判断力の適切なバランスを見いだすことが不可欠となるでしょう。
議論は「AIがやって来る」という段階を超え、企業が実際にどう活用すべきかへと進んでいました。
パネルディスカッションの動画はこちら
パネルへの参加について、サリネのCEO、ツァフリール・エンゲルハルトは次のように述べています。
「サリネにとって、AIは長年にわたり戦略の中核を担ってきました。機械学習により、これまで解決が困難、あるいは不可能だった極めて複雑な課題にも取り組めるようになります。そのためには、従来とはまったく異なるレベルの技術的専門性、膨大なデータ、高度なデータ管理、AIエンジニアやデータエンジニア、そして新たな方法で課題を解決するための社内エコシステム全体が必要です。」
パネルで浮き彫りになったのは、AIの導入には、新しいツールを取り入れる以上の取り組みが必要だということです。AIの能力を実践的なビジネスソリューションと測定可能な価値へと変えるには、専門知識、データ、スキル、プロセスが一体となったエコシステムが求められます。
大会最終日には、CIBJOの宝石学委員会がこの点をさらに補強しました。宝石の検査、グレーディング、意思決定支援に用いられるAIにも、従来の手法と同じ品質保証(QA)、管理、検証の要件を適用すべきだと提案したのです。
重要なインサイト
AIをめぐる議論は、実践的な活用、ガバナンス、説明責任、そして測定可能な価値へと進んでいます。未来を形作るのは、AIと人間の対立ではありません。専門性、創造性、職人技をさらに引き出すテクノロジーです。
04 信頼
信頼は、業界全体に共通する価値の基盤となりつつあります。ダイヤモンド、AI、サステナビリティ、時計、宝石鑑別・鑑定機関、サプライチェーンなど、さまざまな議論に登場しました。
サステナビリティ委員会は、特に中小企業が責任ある調達に関するデューデリジェンスを実施できるよう支援する、改訂版「Responsible Sourcing Toolkit」を発表しました。登壇者は、サステナビリティの実現には、個別の取り組みだけでなく、協力と実践が必要だと強調しました。
スイスの時計業界は、興味深いモデルを示しました。ジェムストーンを精密部品として扱い、トレーサビリティとサプライチェーン情報を活用することで、説明責任と消費者の信頼を高めているのです。
「Blue List」も同じ方向性を示しており、「サステナブル」「責任ある」「倫理的」といった言葉の定義を、より明確にしようとしています。
重要なインサイト
透明性は、CSRのテーマから、ビジネスと消費者の信頼に直接関わる課題へと、その重要性を増しています。
CIBJOからのメッセージ: 基準は、単なる技術文書ではありません。何が販売され、どのような訴求が信頼できるのかを、企業と消費者の双方が理解するための「共通言語」を生み出すものです。
05 レジリエンス
地政学に関するパネルでは、地政学的不安定、制裁、関税、貴金属価格、サプライチェーンの混乱、そして貿易ルートの変化がもたらす影響が検討されました。
業界が事業を展開する環境では、地政学、規制、コモディティ価格、消費者行動が、ますます密接に結びついています。
地政学的な動向は、次の各段階に、より大きな影響を与えるようになっています。
- 製品をどこから調達するか
- どこで製造するか
- どのように取引するか
- 価格がいくらになるか
- 消費者がどこまで購入費用を負担できるか
メーカーはすでに、貴金属価格の上昇に対応するため、ジュエリーの軽量化、代替合金の採用、金属とジェムストーンの組み合わせの見直しを進めています。
重要なインサイト
地政学は今、ジュエリービジネスの経済性に直接影響を及ぼしています。事業戦略を、地政学や規制への対応戦略から切り離して考えることは、もはやできません。
06 協働
業界の未来は、人材、スキル、そして小規模な生産者にもかかっています。私にとって、特に興味深かったのが、手掘り・小規模採掘に関するパネルでした。責任ある調達とはリスクを排除することだ、という考え方に一石を投じる内容だったからです。議論によると、世界のカラーストーンの約80%は、手掘り・小規模採掘に従事する人々によって採掘されています。登壇者は、こうした採掘活動を正式な制度の枠組みに組み込むことで、経済的機会を創出し、トレーサビリティを高め、採掘者を正規の市場へとつなぐことができると論じました。
フェリエル・ゼルーキ氏は、手掘り・小規模採掘を取り残すべきではないと強調し、天然ダイヤモンドのトレーサビリティを構成する要素となり得ると述べました。
4日間にわたる議論、多様な視点、そして考えさせられる対話の数々を、いくつかのポイントだけにまとめることは容易ではありません。それでも、最も心に残ったのは、次のメッセージでした。
この業界に、テクノロジーも、専門知識も、受け継がれてきた歴史も不足してはいません。問われているのは、それらをどう結びつけるかです。
最後に、個人的な思いを込めて
素晴らしい100周年記念大会を実現されたガエターノ・カヴァリエリ氏とCIBJOチームの皆様に、心よりお祝いを申し上げます。業界のリーダー、専門家、関係者からなる多様なコミュニティをひとつに集め、CIBJOの100年を祝いながら次の100年を見据える場を作り上げたことは、実に大きな功績でした。業界にとって忘れられない節目であり、CIBJOを支えるビジョン、献身、情熱が見事に表れた大会でした。

すべてのパネルディスカッションの動画はこちら
🎥https://cibjo.org/congress-2026/news-media/videos/
心を込めて
ロミー