2026年の年次トレンドレビューでは、小売ノイズがあふれる情報過多の現代社会でダイヤモンド業界がいかにして「注目」を勝ち取ることができるかを探ります。
はじめに
2026年に向けて、社会は大きな再調整の局面を迎えています。消費者は、古い構造に猜疑の目を向け、もっと新しいコミュニティの形、産業の在り方、環境保護の方法を探し始めています。
テクノロジー、行動様式、創造的表現の新しい波に乗り遅れたブランドは存在感を失いかねません。ジュエリー業界にもこの変革の波はすでに訪れています。テクノロジーはダイヤモンド業界の透明性とジュエリーの「構想、創造、販売」プロセスそのものを根本から変えています。
しかし、2026年はさらに新たなフェーズに入ります。効率化のためのイノベーションから重要性の競争――つまり「注目を勝ち取るためのイノベーション」へと軸足が移るのです。AIコンテンツやディープフェイク、ボットによる大量の投稿など現代の消費者はかつてないほどの情報の波に疲弊しています。今までの延長線上にある解決策ではこの現況を打破することはできません。今回はこの閉塞感を突破し、消費者の注目を集めるためのヒントを紹介します。
#1 ブランド・コミュニティ:「商品以上」を求める消費者
いま、消費者が手に取っているのは「モノ」そのものではありません。その背後にある世界観、語られる物語、そして他者や世界との深いつながりです。ブランドに求められているのは、消費者が自ら参加し、その一部となることで深い愛着を育める「没入型の世界」の構築です。消費者の欲求は、もはや一時的な気分転換では満たされません。その切実な願いは、現在デジタル・コミュニティやファンダムへと流れ込み、強大な文化的影響力を生み出しています。
成功しているブランドは、消費者の「価値観を共有したい」「もっと大きな何かに帰属したい」という願いを理解し、単に商品を売るのではなく、「感情のエコシステム」を創り出しています。
そこではデジタル・コミュニティやニッチなサブカルチャーによって、ブランドの物語がリミックス、再解釈され、独自の「伝承」「儀式」「共通言語」が創り出されています。商品カタログを羅列するのではなく、こうした「本物の世界観」を打ち出せるジュエリーブランドこそが、文化的な存在感を獲得することができるのです。
出典:Case Study | The Art & Science of World-Building | BoF

ジュエリーブランドが目指すべき地平:ジュエリーブランドが文化的な存在感を獲得するためには、商品を並べるだけでなく、消費者が「この世界に住みたい」と願うような、本物の世界観を提示しなければなりません。あなたのブランドを選ぶことが、「もっと大きな何か」――つまり、ひとつの物語、美意識のムーブメントに参加しているという実感を伴う必要があります。
#2 消費者の感情的エコシステム:購買を促すもの
2026年の消費者行動を突き動かすのは「3つの感情的な飢餓」です。1つ目は、「受け入れられている感覚」。文化的な物語やムーブメント、コミュニティの一部であるという実感。2つ目は、「穏やかさ」。騒がしいデジタル社会から離れ、静かさの中で明晰な思考を取り戻したい切実な願い。そして3つ目は、「インスピレーション」。現実に縛られず、自由な探求心を取り戻したいという欲求です。
これらは喜びを戦略的に選び取る「Strategic Joy」や義務感を「喜び」にシフトする「Pleasure Activism」、そして子どものような無垢な知性「Kid Intelligence」といった概念とも深く連動しています。それは創造性や好奇心を呼び覚まし、よりしなやかで人間らしい生き方に立ち戻ろうとしている消費者の姿と重なります。これらの感情的な飢餓が、これからのクリエイティブの方向性を決定づけます。2027年までには、これらが「究極のセルフケア」として定着し、消費者をより愛と好奇心に満ちた存在へと変えていくでしょう。
すでにその予兆は、TikTokで再燃したビリー・ジョエルの『Vienna』への共感にも表れています。「急ぎすぎないで、君にはまだ時間がある。ウィーンは君を待っている」――この自己受容のメッセージは、Z世代の強いアンセムとなりました。私たちを突き動かすのは、単なる所有欲ではありません。遊び心を忘れず、自分と世界を慈しみながら、「愛」の下で生きていくことへの憧れなのです。
出典:WGSN 2025
業界への示唆:こうした感情的要因を深く理解し、インクルージョン(包摂)、セレニティ(穏やかさ)、インスピレーション(創造性)をデザインに宿すジュエリーブランドは、単にスペックを語るブランドよりも、消費者と圧倒的に深い絆を築けるはずです。購入の決断を下すのは、理性ではなく感情です。あなたのブランドが、これら3つの根源的な欲求に真摯に語りかけているか。改めてその答えを見直してみましょう。
#3 広告の未来:人間中心のソーシャル
数字は、私たちが感じている違和感を裏付けています。現在、インターネット上の全トラフィックの約半分がボットによるものとされ、SNSユーザーの61%がプラットフォームに漂う「不自然さ」を理由に投稿を減らしています。また、18〜34歳の47%が「オンラインで過ごす時間は有益というより、むしろ有害である」と感じており、Z世代は、かつてないほど積極的にスクリーンタイムを削り、デジタルの束縛から逃がれようとしています。
AIが「作られた」SNS体験を管理し、その介入が強まれば強まるほど、私たちは信頼できる存在としての「人間らしさ」を渇望します。真正性、信頼感、データの透明性。これらが新たな時代のスタンダードとなり、「作られたネット空間」に人間らしさを取り戻す道筋となるでしょう。

消費者が今、求めているものは明確です。それは人間の生の声であり、検証可能で透明性の高いデータであり、血の通った本物のコミュニティです。そして何より、「意味のあるブランドとの関わり」です。今、脚光を浴びているのは「人間中心のソーシャル」への回帰です。単にフォロワー数という数字を追いかけ、インフルエンサー投稿に依存する時代は終わりました。ブランドの哲学を深く理解し、共に物語を紡げるクリエイターと長期的な協力関係を築けるブランドこそが、次なる勝者となるのです。
出典:Third Special Report of Session 2024–26
ジュエリーブランドの目指すべき地平:作り手の気配を宿すこと。「検証可能なプロヴナンス」と「透明性な調達」を共有すること。独自のナラティブを語ること。デジタル空間で「本物」が希少になればなるほど、その価値は高まっていきます。完成したジュエリーだけでなく、そこに至るプロセスを積極的にさらけ出せるブランドだけが、消費者の信頼を獲得できます。
#4 カラー・オブ・ザ・イヤー:トランスフォーマティブ・ティール
トランスフォーマティブ・ティールは2026年の空気感を象徴する色で、エコ・アカウンタビリティ(環境に対する説明責任)、困難を乗り越えるレジリエンス(回復力)、生命を育む再生志向の象徴であり、「ポストナチュラル」な世界において、私たちが持つべき「地球最優先(Planet-first)」のマインドセットを体現しています。涼やかで、心を落ち着かせ、心身の回復を促すこの色は、「オーバービュー効果」を視覚化した色で、宇宙から地球の青さを眺めたときに湧き上がる「地球やその豊かな環境を守りたい」という意識の再転換を映し出しています。サステナビリティと原点回帰、そして自然志向のデザインを掲げるジュエリーブランドにとって、これほど理想的な色は他にありません。
出典:WGSN|Coloro

ジュエリーにとって重要な理由:流行色は時代の美的嗜好を映すだけでなく、人々の深い「感情的ニーズ」を投影しています。ティールという色は「穏やかさ」と「自然とのつながり」を渇望する消費者の心に、静かに訴えかけます。責任ある調達ルート、起源の物語、自然志向のデザインを掲げるブランドは、消費者の価値観が向かう方向と共鳴し合うはずです。
#5 Spend Z:すべてを変える世代
Z世代は、歴史上初めての「真のデジタルネイティブ」です。彼らにとってデジタルはツールではなく、身近に存在する環境そのものです。この世代は今後10年で爆発的に購買力を伸ばし、2034年までに世界の消費を約9兆ドル押し上げると予測されています。
特筆すべきは、彼らが極めて「非・西洋中心」な世代であることです。北米・欧州出身者の割合はわずか10%に過ぎず、多様な文化的背景がその価値観を形作っています。Z世代の最年少は12歳で、2029年までには彼らの支出がベビーブーマー世代を上回るという転換点が訪れます。
この世代にとって、経済の主役は企業ではなく「クリエイター」です。実に65%が自らをクリエイターと認識しており、「本物かどうか」をその価値観の中心に据えています。伝統的なスターよりも、SNSを通じて繋がる等身大の「本物の関係」に価値を置く彼らにとって、富や名声よりも「自分らしくあること」の方が大切です。そのフラットな視点は小売の世界にも及び、67%のZ世代はプライベートブランドとナショナルブランドを同等に評価しています。
生涯にわたるブランド・ロイヤルティの確保:Z世代の行動原理
パーソナライズ: Z世代にとって、パーソナライズは付加価値ではなく「前提条件」です。彼らは自分のライフステージやアイデンティティにフィットする体験を求めています。最新のメディアネットワークやテクノロジーを駆使し、Z世代に響くレコメンドを提示することが、信頼の第一歩となります。
没入型の体験:バーチャルが日常になるAR/VRを活用した「楽しい没入型」の購買体験が求められています。特に「友人とのバーチャル・ショッピング」への関心は高まっています。ある調査では、Z世代の約3分の1が友人とのバーチャル・ショッピングに関心を示しており、5年後には、バーチャル・ストアでの買い物は229%、友人とのバーチャル・ショッピングは141%増加するとみられています。
サステナビリティの真実 ― Say-doギャップの解消:「カーボン・ゼロ」や「リサイクル可能」、「ゼロ・ウェイスト」など、複数のサステナビリティ訴求を持つ製品は、そうでないものに比べ売上が2.5倍も増加しています。Z世代は言葉ではなく、行動に重きを置いています。
出典:NielsenIQ – Spend Z

業界への示唆:Z世代にとっての透明性は、「選ぶ基準」ではなく「最低限の条件」です。石の起源にまつわる物語、検証可能な調達ルート、そして文書で裏付けられたサステナビリティの取り組みはとても重要です。ただし「サステナブル」や「環境保護」などの美辞麗句を並べるだけで彼らの共感を得ることはできません。求められているのは、マーケティング言語を超えた「本物らしさ」です。パーソナライズされた、没入型の体験を提供できるブランドだけがZ世代のパートナーとしての資格を獲得することができるのです。
#6 ジュエリー業界:創造性を解放するテクノロジー
テクノロジーはもはや単なる効率化の道具ではありません。それは創造を共にする芸術的なパートナーに進化しています。CAD/CAM、3Dイメージング、デジタル製造は、無限に近いデザインの可能性を切り拓くだけでなく、精度、スピード、そして究極のカスタマイズを実現し、ブランドが紡ぐストーリーテリングの力を飛躍的に高めます。ここで重要なのは、伝統的なクラフトマンシップが失われるのではない、ということです。むしろ、テクノロジーによって補強され、拡張され、さらに高められているのです。
出典: Dreams to Reality: CAD/CAM & Emerging Tech – Jeweller Magazine
業界への示唆:優れたデザイナーほど、何世紀も受け継がれてきた技術と最先端ツールを組み合わせ、過去に敬意を払いながらまだ見ぬ表現の領域へ踏み込んでいます。テクノロジーが真の価値を発揮するのは、人間を置き換えるときではなく、人間の専門性と創造性を「強化」するときです。 そこにあるのは効率のためだけではなく、「意味」のためのイノベーションです。
#7 婚約指輪のトレンド

2026年のブライダルシーンは、5つの大きなトレンドによって形づくられます。
1) チャンキーなゴールドが主役:2026年の主役は、大胆で彫刻的なゴールドセッティングです。金価格が記録的な高水準を更新している今だからこそ、あえて純金と天然ダイヤを合わせることで、揺るぎない「真のラグジュアリー」を演出できます。厚みを持たせたバンドは、モダンでありながらタイムレス。耐久性、存在感、そして受け継がれる価値を備えています。
2) 縦長カットの流行:マーキス、オーバル、そしてそのハイブリッドである「モヴァル」のような縦長のシェイプが2026年の市場を賑わせるでしょう。手元を美しく、石をより大きく見せる効果だけでなく、比率やファセットのわずかな違いが、それぞれの石に明確な個性を与えます。
3) アンティーク調カットの復活:現代のダイヤモンドが画一化するほど、買い手は個性を持ったアンティーク調カットに惹かれます。広めのファセットが放つ柔らかな光の表情は、温かみとロマンス、そして長い歴史の気配をまとって、「完璧さよりも魂」を求める層に深く刺さります。
4) 引き算の美学:ミニマルなデザインが勢いを増しています。装飾を削ぎ落とすことで、選び抜かれた一石のダイヤモンドが持つ本来の輝きが際立ちます。その洗練された彫刻的な外観には、モダンでありながら普遍的な美しさが宿っています。
5) オフホワイト・ダイヤの台頭:淡いイエローやブラウンを帯びた、温かみのあるオフホワイトダイヤモンドが脚光を浴びています。氷のような無色透明さだけが価値だった時代は終わりました。ロマンティックな輝き、個性、そして手の届きやすさ新しい美の基準となりつつあります。
出典: Grant Mobley: 5 Stylish Engagement Ring Trends for 2026: The Expert Guide
トレンドが示唆するもの:上記のトレンドが教えてくれるのは、慣習よりも真正性を、画一化よりも個性を、形式よりも意味を重んじる文化的転換の現れです。消費者は、完璧さよりも個性を、高いスペックよりも温かみを、量産品より「自分の一部」と感じられるデザインを選び始めています。
2026年の結論:より人間らしく、より創造的で、より透明な一年へ
世界観の構築から感情に根ざした消費行動、デジタル空間における真正性、Z世代の購買力、サステナビリティ、そして創造のパートナーとしてのテクノロジーまで、ここで取り上げたトレンドを縫うように走る一本の糸があります。
それは、人々が求めているのは「ノイズではなく意味。」「ボットではなく信頼。」「取引ではなくアイデンティティ。」ということです。
確かにテクノロジーは強力です。しかし、それが真の価値を持つのは、人間の体験を置き換えるときではなく、人間の体験をより豊かにするときです。そして、イノベーションが意味を持つのは、効率化のためだけではなく、より深いつながりを実現するときです。
サリネは常に、ひとつの問いに立ち返っています。「終わりのないコンテンツの洪水の中で、永続的な価値と感情的な共鳴をもつ体験をどうやって作り出せばよいのか?」

その答えは、私たちがこれまで積み上げてきた仕事の中にあります。ただし、それを現代のレンズで捉え直さなければなりません。トレーサビリティ、検証可能なプロヴナンス、真正なストーリーテリング、鑑定データの透明性。これらは単なる技術的な成果ではありません。それは私たちと消費者との「信頼の約束」です。これは、商品を売るだけでなく「世界」を構築するブランドにとって揺るぎない土台となります。そして、ジュエリーを単なる「取引」から、人生の「意味」へと変える力を持つのです。
2026年は、業界がより深い関係性、より強いコミュニティ、より本物のつながりへとエネルギーを向け直す年になるでしょう。最も価値ある通貨となった「アテンション(注意)」を手にするのは、迷わず「本物」を差し出す意志のあるブランドだけです。
それこそが、私たちが共に築こうとしている未来です。🍾